本ブログでは企業前線で本業(研究、開発、営業、サービス、スタッフ業務等)に従事しながらも、その本業をスムーズ進めるために、専門外のマーケティング、特にITに係るマネタイズ、ビジネスモデルも考えなけれぱならない方々への情報支援をしております。
今回はIT技術をあらゆる分野で支える『組み込みソフトウェア』の収益の仕組みとビジネスモデル領域(どの様にして、何処で稼げるのか)についてわかり易くご説明します。
本ブログでは『ビジネスモデル』は「価値を提供して収益を上げる仕組み」、『マネタイズ』はその中核にある「収益化」部分と捉えてご説明します。例えばGoogleの『ビジネスモデル』は「検索サービス」の「価値提供」と「広告連動」の『マネタイズ(収益の仕組み)』から構成されていると見ることができます。
1. 組み込みソフトウェアの価値
収益の源となる3つの提供価値です。
1-1 安定動作の価値
組み込みソフトウェアは、主に特定機器、装置、システムなどに組み込まれ、常に決められた動作を繰り返すようにプログラムされています。そのため信頼性高く安定した動作がされるよう構築されていることが必要で、それが提供価値となります。
1-2 省リソース動作の価値
組込みシステムは、メモリやCPUなどのリソースが限られているため、小さな容量で高い処理能力を持つことが求められます。そのため、プログラミング手法や開発プロセスが一般的なソフトウェア開発と異なる場合があり、その難易度の高さに提供価値があります。
近年はIoT(Internet of Things)等、あらゆるモノをネットワークに繋ぐ環境が拡大し、ますます多くの機器や装置に組み込むためのソフトウェアニーズと重要性が高まっていますが、同時にその技術的難易度も高まっているわけです。
1-3 ビジネス性(稼げる)価値
ビジネス性については下記メリットとデメリットを比較衡量し、トータルメリットがあれば、そのソフトウェアの(収益モデルとしての)価値があると言えます。
a) メリット
- 一旦設計・開発してしまえば、量産コストメリットがある。
- ユーザーが設定に関わることがない為、セキュリティリスクが低い。
b) デメリット
- 開発や修正にリソース(時間、コスト)が伴うため、新たな市場の変化に対応しづらい。
- ハードウェア依存の為、アップグレードや更新に余分な手間がかかる。
まとめ
- 組み込みソフトには3つの提供価値がある。
- その価値がないとマネタイズできない。
2. マネタイズに係るステークホルダー(利害関係者)
ここではマネタイズに係るステークホルダーを分類します。それぞれの立ち位置や相互の関係性、市場での力関係等が反映され、各人の収益モデルが定まります。
2-1 ユーザー/顧客(使用者)
組み込みソフトウェア又はそれを実装したハードウェアを最終的に使用する人々(企業、団体、個人等)で、ソフトウェアの品質、機能、価格、サポートなどを比較検討して決定します。彼らが導入、使用しなければ、他のステークホルダーがどれだけ頑張ってもマネタイズ(収益化)はできませんが、組み込みソフトウェアベンダー(供給側)からは直接働きかけられない場合が多く、それでも彼らの存在とニーズ(組み込みに求める価値)は常に把握して置かなければなりません。
2-2 ハードウェアメーカー(導入者)
組み込みソフトウェアが実装されるハードウェアを製造・販売する企業です。ソフトウェアがハードウェアに組み込まれるため、ソフトウェアの品質や機能がハードウェアの価値にも影響します。彼らは最終ユーザーに導入・利用されるよう提供ソフトの価値を厳しく評価します。
また、ハードウェアは主に製品系と部品系に分類することができます。製品系ハードウェアは最終ユーザーに導入され、部品系ハードウェアはそれ以外に導入されます。夫々に収益モデルが異なります。
a) ハードウェア製品例
それぞれに市場トレンド、競合状況を踏まえ、エンドユーザの導入ハードルを下げ、リピーターになるような価格や使用条件で各製品を提供しています。そのため、導入する組み込みソフトもそれを踏まえ選定をします。基本性能やキラーアプリに必須の機能的価値の高いソフトウェアでも、エンドユーザーの使用条件に合わないものは導入しません。
- スマートフォン、タブレット、
- ノートパソコン、デスクトップパソコン
- 家電製品(テレビ、冷蔵庫、洗濯機など)
- 車載システム(カーナビ、エンジン制御、エンターテイメントシステムなど)
- 医療機器(MRI、CTスキャン、人工心臓など)
- 航空機器(自動操縦装置、航法装置、エンジン制御など)
- 工業用ロボット
- KIOSK端末、電子マネー決済端末等
b) ハードウェア部品例
部品として企業顧客に導入して頂き易いよう組み込みソフトを選別します。上記と同じく機能的価値は必須ですが、企業顧客の使用条件に貢献しなければ導入しません。
- マイコン
- FPGA
- ASIC
- DSP
- センサー
2-3 ソフトウェアベンダー(供給者)
組み込みソフトウェアを提供する企業や団体です。彼らは各ソフトの機能的価値を提供し、その対価として、ライセンス料やサポート料の形で収益を得ます。
収益モデル別に3種のベンダーに分類することができます。
a) ミドルウェアベンダー
組み込みソフトウェアに最も特化したベンダーてす。彼らの商品は基本ソフトウェアの土台部分と目に見えるアプリケーションの間の繋ぎの機能を提供しソフト単体として収益を得ます。
b) アプリケーションベンダー
メールソフトや会計ソフトなど、特定の機能を持つソフトウェアを製造・販売するベンダーです。基本的には同じサービスをユーザーの利便性のため複数の提供形態(クラウド又はダウンロードアプリケーション)を用意します。後者のダウンロードアプリがここで言う組み込みソフトに該当しますが、a)の様な単体の機能的価値(その対価としての収益性)は殆どなくなく、全体サービスのいちメニューの価値しかありません。
c) システムベンダー(システムインテグレーター)
システムの開発や提供を行うシステムインテグレーター(Sier)は、夫々のシステムを販売、運用する為に、a)タイプのミドルウェアやb)タイプのアプリケーションを必要に応じて取り込みます。システムの目的達成の為のツール的な位置づけなので、a)、b)のような一定の収益性は殆どありません。
2-4 ソフトウェア開発者・研究者(作成者)
組み込みソフトウェアを開発するプログラマーやエンジニア、研究者たちです。彼らが高品質なソフトウェアを開発することで、それを組み込む製品の品質や機能性が向上し、ユーザーニーズに合った製品を提供に繋がります。彼らは基本的にハードウェアメーカーかソフトウェアプロバイダーに所属していて個人的には給与(場合によってはインセンティブ的収入)を得ます。しかしながらその成果物(組み込みソフト)のマネタイズには彼らの対応リソース(作業ボリューム、技術力、技術分野等)が影響します。長期的収益が見込める(ライセンス)か短期収益(買取)で終わらせるか、など。
2-5 知財戦略エキスパート(支援者)
組込みソフトウェアの価値を最大限高める為の戦略、交渉を担う知的財産権の専門家たちです。機能的価値の高いソフトウェアでも戦略や交渉を誤ればマネタイズに失敗したり、逆に優位性がさほどなくても運用に成功すれば会社に最大限の有益をもたらしたりもする重要なスタッフです。多くはハードウェアメーカーやソフトウェアベンダーに所属するか、独立系法律事務所として大手企業と連携するパターンが見られますが、多くはスタッフ作業としての対価のみで、組み込みソフトのインセンティブには絡みません。
2-6 政府機関(規制者)
組み込みソフトウェアが安全性やセキュリティ上の問題に関わる場合、政府機関はその規制に関与することがあります。政府機関が組み込みソフトウェアの規制を強化することで、ソフトウェア開発者や提供者は規制に適合するためのコストが発生する可能性があります。逆にルール変更により新たな収益モデルの出現もあり得ます。
まとめ
- マネタイズには6つのステークホルダーが関わっている
- 夫々がニーズ(求める価値)と収益モデルの関係性を持っている
3. 組み込みソフトウェアのビジネス領域
組込みソフトウェアがビジネスモデルとして文字通り収益の仕組みに組み込まれる代表的な領域をご紹介します。基本的にはどの領域でも、組み込みソフトの機能的な提供価値がなくなる事はありませんが、夫々の機能が必須機能になることで標準環境(OSやブラットフオーム)に取り込まれてしまって、マネタイズ(収益モデル)が変わることは頻繁に起こります。それを回避する為には、常に標準環境化されない前章での機能的価値を高めておく必要があります。
3-1 ネットワーク領域
一般でよく言われている通信インフラ領域で、ICT技術の骨格部分に相当します。戦争やインターネット商用化等、大きな社会的事象により収益、ビジネスモデルの地殻変動が定期的に発生します。
固定型通信、移動型通信衛星、通信衛星放送、地上放送、ケーブルテレビ等
3-2 クラウド・データセンター領域
ICT技術、ネットワーク領域の血肉に相当し、特に効率化、コスト低減に係る技術が短期間に発生し、マネタイズ、ビジネスモデルが日々変動します。
クラウドサービス、データセンター、デジタル放送事業等
3-3 共通的機能領域
他の領域に幅広く導入、使用使用され、各領域でのユースケース、マネタイズ、ビジネスモデルに影響を与えます。
セキュリティーソフト、AIソフト、データビジネス等
3-4 端末機器領域
組み込みソフトウェアと最も親和性の高い領域です。キラーアプリの要素機能として導入されれば大きな収益が得られる一方、常にコスト要因と見られ、技術的優位性がなくなれば、即カット対象となります。
- 家電、パソコン、スマートフォン、タブレット等のデジタル機器
- IoT機器、ウェアラブルデバイス、ドローン、ロボット等
- 電子部品、集積回路、マイコン、各種プロセッサ
- サーバ、ルーター、LANスイッチ
3-5 コンテンツサービス領域
エンドユーザーに近いサービス領域ですが、ハードウェアの様に対象物にお金を払う意識が余りなく、夫々のサービスのマネタイズモデルの主体(胴元)の特定と戦略が必要です。組み込みソフト単体の機能価値だけでは殆ど通用しない領域です。
SNS、 EC、電子決済、検索サービス、動画、音楽配信、電子書籍、広告放送、有料放送
まとめ
- 組み込みソフトには5つのビジネス領域がある
4. 組み込みソフト提供価値カテゴリ
上記各領域で組み込みソフトウェアが価値提供できる代表的な機能カテゴリをご紹介します。それぞれのカテゴリで求められる機能(1章の提供価値)を備えた組み込みソフトが(2章の)ソフトウェアベンダーにより提供され(2章の)ステークホルダーにより導入、使用され、それぞれがそれぞれの形態で収益を得ます。
- 制御機能
- ネットワーク機能
- セキュリティ機能
- データベース機能
- デバッグ機能
- ファイルシステム機能
- グラフィックス機能
- 通信機能
- マルチメディア機能
- プロトコル処理機能
まとめ
- 組み込みソフトには10の価値提供のカテゴリがある。
5. マネタイズ(収益)形態
組み込みソフトウェアのマネタイズ形態とその契約パターンをご紹介します。それぞれの提供価値によって最適な(効率的、低リスク、優位な)収益形態が選択されます。また、選択においてご注意頂きたいのは各パターンの名称は使う方々により微妙に異なる場合があり、重要なのは実際の条件(契約当事者の権利関係等)がどう定められるかです。現実的には契約締結までの条件折衝を続ける中で当初の契約パターンでは当初期待していた収益、権利関係が得られないことがわかり、契約形態を変更するケースもまま見られます。また、マネタイズ化に影響が出るのは対象ソフトウェアの機能的価値だけでなく、導入者の最終目的、市場環境、競合状況等(該当ソフトウェアの優位性)も関わってきます。
5-1 使用許諾(ライセンス)型
ソフトウェアを使用する権利を最も有利な提供条件で個別のライセンス契約を締結して収益を得るパターンです。組み込みソフトの最もオーソドックスな収益形態で、機能的な提供価値が高い場合によく選択されます。この場合、導入者やユーザーは契約条件の使用料(ライセンスフィー)を支払います。大きく分けて、組み込まれた商品の販売数量を基に支払われるピースロイヤリティ型、数量に基づかない定額払い型、一括払いで無期限使用できる買取型があります。提供ソフトがそのまま使えるわけでなく、導入者側には実装技術が求められます。
5-2 サブスクリプション型
プロバイダー(提供者)が予め設定した定期支払条件に基づいて導入者やユーザーにソフトウェアの使用権を提供することで収益を得る方法です。特定のサービスをダウンロードアプリケーションで提供する場合によく見られるパターンです。基本的には使用者側に条件折衝の余地はなく、使用者は支払条件に同意することで提供ソフトウェアをそのまま利用できます。
5-3 サービス・サポート提供型
ソフトウェアの使用だけでなく、サポートやメンテナンスなどのサービスも含めて提供することで全体収益を確保する方法です。一般的に機能的な価値がそれほど高くなく、使用権だけでは収益化が難しい場合によく見られるパターンです。導入者、ユーザーは提供ソフトの運用の利便性、サポート力を含めたトータル価値に対して支払います。
5-4 プロジェクト・開発受託型
プロバイダーが元々保有する組込みソフトの技術的価値を提供するのではなく、導入者、ユーザーの要件に基づいて、保有ソフトウェアをカスタマイズするプロジェクト(開発)を受託することで収益を得る方法です。この場合、基本的には使用権(ライセンス)を許諾する形態でなく、成果物納品(権利移転)の形態をとります。組込みソフトに限定されない、システムインテグレータ(Sier)でよく見られるパターンです。
6. まとめ
本テーマのお持ち帰り(Takeaway)は下記の通りです。
- 組み込みソフトウェアの3つの価値と収益モデル
- 組み込みソフトウェアの5つのプレーヤー(利害関係者)
- 組み込みソフトウェアの5つのビジネスモデル領域
- 組み込みソフトウェアの提供価値のある10機能
- 組込みソフトウェアの4つのマネタイズ(契約)形態
御礼🔶あとがき
今回も、お忙しい中、最後までご覧いただき大変ありがとうございました。今後も現業でお忙しい傍ら、専門外のマネタイズやビジネスモデルを考えなければならない方々にわかりやすい情報提供に努めてまいりますので、引き続きご愛顧のほど宜しくお願い致します。🔶Gold